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たじゅうとそのいぬ

太十と其犬

長塚 節

「ホトトギス」1910(明治43)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页

青空文庫

盗んだ西瓜は遙かに隔たった路傍の草の中で割られた。彼等は膝へ打ちつけて割った。そうして指の先で刳っては食った。水分があとに残って滓ばかりになっても彼等は頓着せぬ。彼等には西瓜の味よりも寧ろうまく盗んだことが愉快に思われるのである。こうして汚れた西瓜の無残な形骸が処々の草の中に発見されるのである。西瓜がなくなって雑談に耽りはじめた時

「あれ」

と一人が喫驚したようにいった。

「どうした」

「何だ」

罪を犯した彼等は等しく耳を欹てた。其一人は頻りに帯のあたりを探って居る。

「何だ」

「どうした」

他のものは又等しく折返して聞いた。

「銭入どうかしっちゃった」

其の声はいたく慌てて居た。

「あれ落っことしちゃ大変だ、何処へなくしたっけかな」

尚幾度かそこらを闇にすかしても見た。然しそこらにそれが落ちて居る理由がなかった。彼等は其夜其まま別れて畢えばまだまだ事は惹き起されなかったのである。彼は家に帰れば直ちにそれを発見したのである。彼は忘れて出たのである。其夜彼等が会合したのは全く悪戯のためであった。悪戯は更に彼等の仲間にも行われざるを得なかった。

「そりゃ畑へ落して来たぞ」