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たじゅうとそのいぬ
太十と其犬
長塚 節
「ホトトギス」1910(明治43)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,769 字 · 32 页
四
其でも太十の情は依然として深かった。
四
彼がお石を知ってから十九年目、太十が六十の秋である。彼はお石を待ち焦れて居た。其秋のマチにも瞽女は隊を組んで幾らも来た。其頃になってからは瞽女の風俗も余程変って来て居た。幾らか綺麗な若いものは三味線よりも月琴を持って流行唄をうたって歩いた。そうして目明が多くなった。お石は来なかった。それっきり来なくなったのである。太十は落胆した。迷惑したのは家族のものであった。太十は独でぶつぶついって当り散した。村の者の目にも悄然たる彼の姿は映った。悪戯好のものは太十の意を迎えるようにして共に悲んだ容子を見てやった。太十は泣き相になる。それでもお石の噂をされることがせめてもの慰藉である。みんなに揶揄われる度に切ない情がこみあげて来てそうして又胸がせいせいとした。其秋からげっそりと寂しいマチが彼の心に反覆された。威勢のいい赤は依然として太十にじゃれついて居た。太十は数年来西瓜を作ることを継続し来った。彼はマチの小遣を稼ぎ出す工夫であった。それでもそれは単に彼一人の丹精ではなくて壻の文造が能くぶつぶついわれながら使われた。お石が来なくなってから彼は一意唯銭を得ることばかり腐心した。