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たいへいようまじょう

太平洋魔城

海野 十三

「少年倶楽部」大日本雄弁会講談社、1939(昭和14)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 93,147 字 · 187 页

青空文庫

室内へ入ってくる乗客をじっと見ていると、ずっと遅れて、例の酔っぱらいリキーとケント老夫人とが入ってきたのには、ちょっと不愉快になった。

「さあ、どけ。こんなところで何をしてやがる」

たちまち室内にひびきわたるリキーの怒号の声!

間違ってリキーの座席にすわっていた若いインド人夫妻が、締め殺されるような悲鳴をあげて、太刀川のいる方へ逃げてきた。

「どうしました。あなたがたの座席番号は?」

と、太刀川がきいてやると、二人はよろこんで、まだぶるぶる慄える手に二枚の切符をもって、さしだした。

「四十七号と四十八号。それなら、私の前です。私は五十号ですから」

インド人夫妻は、うれしそうに、いくども礼をいって、太刀川の前に座をとった。

眼をあげて、リキーの方をみると、かの二人はようやく落ちついたようであった。すなわち、太刀川のいるところと真反対の一番隅に、老夫人がふかく腰をおろし、通路に近い方に酔っぱらいのリキーがすわっている。

そのうちに、出発の時刻がだんだん迫ってきた。

はげしく、賑やかに銅鑼が鳴りだした。乗客たちは、飛行艇の窓から外をのぞきながら、小蒸気の甲板にいる見送人と手をふり、ハンケチをふって、別れの挨拶をする。