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じょなん

女難

国木田 独歩

「文藝界」1903(明治36)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,695 字 · 45 页

青空文庫

そのうち十九になりました。ちょうど春の初めのことでございます。日の暮方で、私はいつもの通り、尺八を持って村の小川の岸に腰をかけて、独り吹き澄ましていますと、後から『修蔵様』と呼ぶものがあります。振りかえって見ると武之允といういかめしい名を寺の和尚から附けてもらった男で隣村に越す坂の上に住んでいる若い者でした。

『なんだ。武之允山城守』

『全く修蔵様は尺八が巧いよ』とにやにや笑うのです。この男は少し変りもので、横着もので、随分人をひやかすような口ぶりをする奴ですから、『殴るぞ』と尺八を構えて喝す真似をしますと、彼奴急に真面目になりまして、

『修蔵様に是非見てもらいたいものがあるんだが見てくれませんか』と妙なことを言い出したのでございます。変に思いまして、

『なんだろう、私に見てもらいたいというのは』

『なんでもいいから、ただ見てもらえばいいのだ』

『どんなものだい、品物かい』と問いますと武の奴、妙な笑いかたをして、

『あなたの大すきなものだ』

『手前はおれをなぶるなッ』

『なぶるのじゃアない、全く見てもらいたいのでござんす。私のお頼みだから是非見てやって下さい』と今度はまた大真面目に言うのでございます。