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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
俺は今日一日でも大変元気づいたような心持がする」
と千吉君は細君を説きつけようと努めた。
「叔母さん、荻窪でございますの?」
と八千代さんがお箸を休めた。
「荻窪よ」
「私の同級に荻窪から通っていなさる方がありますわ。迚も好いところだから是非遊びにいらっしゃいと仰有いますのよ」
「有難いぞ。八千代さんが応援してくれゝば百人力だ。不便だなんて仰有らなかったでしょう?」
「些っとも不便なことはないんですって。電車都合も市内の下手なところよりは好いって仰有いますわ」
「それ御覧。安子」
「兎に角行って見ましょうか?」
と安子夫人は極く少し動いた。今の住居でも三越や帝劇へ可なり遠い。それがもっと遠くなるのは何となく心細いのである。
百聞一見に若かずという言葉は東京郊外の生活に能く当てはまる。荻窪だの玉川だの調布だのという肥汲みの番地を聴いた丈けでは、一向実感が起らない。しかし友人に勧められて検分に行って見ると大抵感服する。空気は好し、眺望は好し、何うせ天気の好い日を択って出掛けるのだから、万事好いずくめで悉皆好い心持になる。自分と同程度の連中が遙か小綺麗に暮している。