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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

猿虎蛇

「私、あなたを圧迫なんかしませんわ」

「圧迫したじゃないか?」

「まあ、それは聞きものですわ。いつして?」

「先刻したよ」

「先刻?」

「米を二俵唯取りしたろう?」

「あんなこと圧迫じゃないわ」

「当てがい扶持の小遣から米二俵は可なりの圧迫だよ」

「詰まらないことを根に持っていらっしゃるのね」

「一俵負けておくれ」

「厭やですよ」

「そんなことを言わないで」

「いゝえ、いけませんよ。私、橋口さんの奥さんが小憎らしくて迚も負けられませんわ」

と安子夫人は何うしても承知しなかった。

猿虎蛇

翌日安子さんはお約束に従って内藤夫人を訪れた。お仕度をしながらも亦途すがらも、昨夜あったに相違ない経緯のことが時々考え出されて、その今日直ぐ顔出しをするのは何んなものだろうかと、多少懸念がないではなかった。しかし夫人は待ち構えていたようにイソ/\と迎えてくれた。恐らく暴風の後の日本晴れだったろう。一寸誘いに寄ったにしても女は然う簡単に行かない。主は礼として引っ張り上げざるを得ず、客は儀として上り込まざるを得ないのである。

「まあ、坊ちゃんの大きくおなりなこと!」

と安子夫人は挨拶が済むと直ぐにお子さんを問題にした。