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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「一時間未満だったら御相談に乗りますわ」

「叔母さん、丁度一時間ぐらいよ。その同級生の方は学校まで一時間きっかりですって。私も家から学校まで一時間きっかりですもの」

と八千代さんは郊外生活に理解がある。

「会社も丁度一時間だってさ。大場君も木下君も然う言っていた」

「一時間均一ね。けれども一時間未満でなけりゃ駄目よ」

と安子夫人は笑った。

市内市外とも電車運が好かったから、荻窪で下りた時は尚お十四分の余裕があった。千吉君は大丈夫だと思ったが、女の足だから油断がならないとも考えて、

「成程、好いところね」

と安子夫人がソロ/\田園催眠術にかゝり始めても、

「文化住宅ばかりだろう? もう少しだ」

と簡潔を旨として先登に立つことを忘れなかった。

「叔父さんはお急ぎね」

と八千代さんは察していた。

「あの屋根の高い旧式な赤塗りが木下君のところで、クリーム色の低い新式が大場君のところだ。駅からこゝまで丁度九分だけれど十分かゝった。未だ四分ある」

と千吉君は間もなく目的を達して歩調を弛めた。

「真正に一時間未満ね。近いわ。それに好い景色ね。西洋建築ばかりで日本の田舎とは思えませんわ」