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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

「それもありましょうね」

とこの辺は細君も甘い。

これから叔母姪は長火鉢の座蒲団に根が生える。忙しい/\といっても子供のない家庭は呑気なものだ。それでもお互に立とうという気はある。然う思いつい話し込んでいるところへ玄関の格子が明いて、八千代さんが取次に出ない中に千吉君が入って来た。

「まあ、何かお忘れもの? あらまあ!」

と細君が驚いたのも道理、千吉君は羽織と袴を泥だらけにしていた。

「大失策だ」

「又飛び乗りをなすったんでしょう?」

「いや、飛び下りの方だ」

と千吉君は手洗鉢で手を洗って来た。早速不断着に替えながら、

「馬鹿な話さ。電車に乗って切符を切る段になると小川君の病院が分らない。考えて見れば入院と聞いた丈けで見舞いに出掛けたんだね。何処の病院だか知らないんだ。慌てゝいるよ。占まったと思って飛び下りると美事泥濘のところへ転んでしまった。手を擦り剥いたよ、こんなに」

「いくら御自分のお身体でも些っとは大切になさいませよ。お羽織がこんなに裂けているじゃありませんか?」

と細君は良人の傷よりは羽織の疵を検めている。

「考えて見ると急いで飛び下りるにも及ばなかった。