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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
一晩でも二晩でも宜いから東京市民に耳のお正月をさしてやりたいと仰有って、放送局へ掛け合い中だと承わりました」
「まあ/\、正気の沙汰でございましょうか? 奥さまも奥さまね、彼処は。あんな猿虎蛇のような声を毎晩黙って聞いていらっしゃるのでしょうか?」
「それは貞淑なお方でございましょうからね。お嗜みのほどが察しられますわ。オホヽヽヽ」
「オホヽヽヽ、そうして橋口さんのお謡いになるお顔ったらありませんわ。まるでいきみ出すのよ、謡曲を、獅咬火鉢そっくりの表情をして」
「オホヽヽヽ、奥さまもナカ/\お口がお悪いのね。宅の女中は、火吹き達磨に生き写しだと申して居りましたよ」
「まあ、悪いことを! けれども似ていますわ、火吹き達磨に、オホヽヽ」
「獅咬火鉢でも猿虎蛇でも、お弟子入りをした以上は兎に角お師匠さまですから、御挨拶に上らなければなりません。奥さまの御都合はいつが宜しゅうございますの?」
「さあ、私、いつでも結構でございますわ。奥さまの御都合は?」
と両奥さまは日の打ち合せからお土産物の相談に移り、結局明日安子さんが内藤夫人を誘って三越に寄り、何か見つくろって序に昼食を認め、それから橋口家へ出頭することに定った。