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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
と安子さんは拠ろなく囁いた。今更声を潜めても追っ着かない。
「然うでございましょう。主人は不景気だから三月だと、斯う三本指を出して見せましたの。余りですよ、何ぼ何でも」
と内藤夫人は若し御主人が側にいたら飛びかゝったかも知れない。流石の安子さんも何と言って調子を合せて宜いか、行き詰ってしまった。
「賞与を誤魔化したり俸給を匿したりするのは何処かにお金を使うところがあるからでございますわ。奥さまは村島さんから主人の噂を何かお聞きじゃございませんの?」
「いゝえ、一向」
と安子夫人は相手の血相が変っているので恐ろしくなった。
「でも主人は酔って帰った時はいつも村島さんと御一緒のように申すのでございますよ」
「それが、奥さま、実は斯うなんでございます。主人は一番御懇意に願っていますから、時折内藤さんのお供を致すようですが、御酒が一向いけないもので、中途から逃げて参ります。後は大抵葛岡さんと……」
「まあ、葛岡さん? あの人はいけないんですよ。だらしがないんですよ」
「いゝえ、葛岡さんに罪を塗りつけるのではございませんが、宅のはあの通り不調法なものですから……」
「それは私だって盲目じゃございませんわ。