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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

夕御飯には未だ一時間あると思ったが、足伸しの為めに二階から下りて来た。

「あらまあ、お客さまはもうお帰りでございましたの?」

「今お帰りになって、私、こゝへ坐ったばかりよ。あゝ、肩が凝ったこと!」

と安子夫人も草臥れている。お口を歪めて首を廻して見た。

「少し揉んで上げましょうか?」

と八千代さんは郷里のお母さんが大の痃癖持ちだから、この頃の女子大学生にしては能く気がつく。

「宜いのよ。でも私、ホッとしたわ」

「大変お骨の折れるお客さまでございましたのね」

「八千代さん、口は禍の門って、矢っ張り真正ね。私、ツク/″\感心しました。黙っていれば宜いことをついうっかりお喋りして、大変なことになってしまったのよ。まあ、聴いて下さい」

と安子さんはお里が台所で晩の指図を待っていると承知でも、内藤夫人との一部始終を成るべく端折らずに物語らなければならない。一家の主婦となると、斯ういう目に見えない用事が次から次へと起って来るから、ナカ/\忙しい。

「内藤さんのお家のことを思えば宅の千吉なんかはあれで余っぽど好い方ですわ。第一人間が馬鹿正直ですからね。私を瞞せるものとは決して思いません」