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こうじんぶつ
好人物
佐々木 邦
「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页
とお里も持て余している。
「然うねえ。けれども家のものか何うかも分らないんだから」
とそのまゝ二俵の米に広くもない台所の幅を狭めさせて、安子夫人は晩御飯の仕度に取りかゝった。八千代さんはその間にお座敷と茶の間を片付けて箒をかける。
千吉君はトボ/\頃に帰って来た。帰ってさえ来れば命はあるものと認めているから、安子さんは急いで迎えもせず、安心して膳拵えを続けた。成程、今度は至って無難だったが、橋口先生御指南の厳しさ、暗雲に唸らせられたと見えて、
「晩くなった。晩くなった。あゝ、腹が空った」
と訴える千吉君の声は大分嗄れていた。
「あなた、先刻お米が二俵参りましたが、あなたが御註文なすったんですか?」
と安子夫人は手の明き次第台所の邪魔ものを問題にした。
「来たかい? それは宜かった」
と千吉君は驚かない。
「然うですか? あなたですか? お里や、矢っ張りお前の推量通り旦那さまが御註文なすったんですとさ」
「それでは物置へ持って参ります」
「兎に角然うしておくれ」
「どっこいしょ!」
とやがて台所から洩れたお里の掛け声は米俵を動かす努力であった。
食事が始まった時、千吉君は、