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こうじんぶつ

好人物

佐々木 邦

「婦人画報」1925(大正14)年5月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 52,609 字 · 107 页

青空文庫

ついこの間始めたんだがね。怖がりさえしなければ直きに上達する」

「実は僕も子供の時郷里で二三度乗ったことがあるんだよ」

「それなら尚お困難はない。下地があると違う。馬の方で侮らないからね」

と木下君は例によって乗馬を勧めた。

上り込んで一時間ばかり話している中に、千吉君は一寸乗って見る気になった。そこへ蹄の音が聞えて、大場君が戻って来た。

「君、村島君は決心がついたよ」

と木下君が紹介した。

「それは宜かった」

「地があるんだってさ」

「地が? この附近にかい?」

「いや、家のことじゃない。馬に乗る決心がついたんだよ」

「何だい。そんなことを勧誘していたのか」

と大場君は驚いた。

荻窪は野菜の名所だとあって、奥さんはサラダを三通り出した。主婦も便利なところと信じ切っているから、決して鑵詰に屈伏しない。尤も牛乳屋は毎日来る。魚屋も一日置きに御用を伺う。牛肉も三日ぐらい前に願書を出して置けば定刻に配達して貰えるから、まさか餓死するようなことはない。三人は野趣溢るゝが如き御馳走に舌鼓を打って話し込んだ。

「何うだね、東京へ遠くても別に不便は感じないかね?」

と千吉君も主義で借家住いをしているのではないから意思は素よりある。