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さいのひみつばこ
妻の秘密筥
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页
なった実例があるのか?」
「やり方によっては何でも弊害がある筈だ。それじゃ野球は何うだ? 野球は? 野球で死ぬことがあるけれど、その為め野球はいけないとは言えまい?」
「野球の間違は極く時稀だ。しかし山登りは年外年中犠牲を出している。今を何ういう時勢だと思う? 有為の青年が山へ登って命を捨てゝいられるか? 当局は事変中登山を禁止するのが本当だろう」
「多少の犠牲はあっても、一般の体力が向上すれば宜いんだ。そんな度量の狭い当局じゃない」
「君達は時局の認識が不足だよ。それだから酔狂な余技に貴重な時間を潰しているんだ。一体、謡曲を唸ったり、童画を塗ったりしていられる時だろうか?」
「おや/\、此方へ攻撃が来たのかい? しかし広瀬君、それは極端だろう?」
と謡曲の海野君が相手になった。
「極端だよ」
と油絵の木寺君も後に続いた。
「何故極端だい? 木寺君」
と広瀬君が指名した。僕は知っているが、広瀬君が名を指す時は、軍備が確信的に充実しているのだ。相手は大概やられてしまう。
「極端だよ」
「何故?」
「君のように言うと、事変に直接関係のないことは何でもいけないことになる。