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さいのひみつばこ
妻の秘密筥
佐々木 邦
「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页
僕も両親に打ち明けて成功する見込がないと明言していた。そこで別れる外に仕方がない。しかしそれが辛いんだ」
「御道理だ。悲恋だね。初めから」
「一度僕は話の中に、冗談に、お婆さんと呼んだんだ。すると光子さんは泣いてしまったよ」
「光子さんというのか? 覚えて置こう」
と僕は手帳につけた。
「何の因果で私はあなたよりも年上に生れて来たんでしょうと言うんだ。僕はあやまった。二つ姉さんでも愛があれば構わないと言ったが、光子さんは納得してくれない。光子さんのところの家作に税務署長が住んでいて、そこは主人より奥さんの方が年上だものだから、焼餅喧嘩が絶えないんだ。今可愛がって戴いても、十五年二十年たつと、あの奥さんのように僻まなければならないでしょうから、今の中に諦めますと言い出した。実はそれまでは二人で押し切る相談もあったんだが、冗談にお婆さん呼わりをしてから、もういけない。元来が親の許さない恋仲だ。親父同志が政友会と憲政会に別れて、鎬を削っているんだから、迚も覚束ない。光子さんは僕に寄越した手紙を悉皆返してくれと言う。手紙にもそう書いてあったから悉皆持って帰って来ていた。