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さいのひみつばこ

妻の秘密筥

佐々木 邦

「現代」大日本雄辯會講談社、1939(昭和14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,212 字 · 25 页

青空文庫

僕なんかは旧の師匠のところに間借りをしていた為め、偶然興味を持ち始めたんだから、木に竹をついだようなものさ。勉強はしているが、日暮れて道遠しの感がある」

「お互だよ。僕は余技なんかない方が気楽だろうと時々思う。人の巧いところと自分の拙いところが目について、煩悶を重ねるばかりだからね」

「本当だ。何もやらない方が悧巧さ」

「自分がやらなければ、加減が分らないから、大胆な批評が出来る」

「その点、広瀬君は心得たものだ」

「何だって?」

と広瀬君が開き直った。もう口を出したくってウズ/\していたところだった。

「余技のないものは幸福だというのさ」

と海野君がその理由まで説明した。謡曲なんかやっているものは頭が古いと見えて、余技の負担を今更新しく発見した積りだった。

「黙って聴いていれば、何だい? 君達は余技がある積りかい?」

「厳しく来たね」

「声帯の痙攣が余技なら、鶏なんかは大家の方だろう。コケコッコー」

「相変らず口の悪い男だ」

「余技を主張するからには、本技があるんだろう? 君の本技は何だい?」

「…………」

「一寸返答が出来まい。人間は実に不正確な言葉を使って平気でいる。