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おんなけいず
婦系図
泉 鏡花
「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页
「お珍らしいこと。」
「…………。」
「蔦吉姉さんはお達者?」と小さな声。
主税はヒヤリとして、ついに無い、ものをも言わず、恐れた顔をして、ちょっと睨んで、そっと上って、開けた障子へ身体は入れたが、敷居際へ畏まる。
酒井先生、座敷の真中へぬいと突立ったままで――その時茶がかった庭を、雨戸で消して入り来る綱次に、
「どうだ、色男が糶出したように見えるか。」
とずッと胸を張って見せる。
「私には解りません、姉さんにお見せなさいまし、今に帰りますから、」
「そう目前が利かないから、お茶を挽くのよ。当節は女学生でも、今頃は内には居ない。ちっと日比谷へでも出かけるが可い。」
「憚様、お座敷は宵の口だけですよ。」
と姿見の前から座蒲団をするりと引いて、床の間の横へ直した。
「さあ、早瀬さん。」と、もう一枚。
主税は膝の傍へ置いたままなり。
友染の羽織を着たのが、店から火鉢を抱えて来て、膝と一所に、お大事のもののように据えると、先生は引跨ぐ体に胡坐の膝へ挟んで、口の辺を一ツ撫でて、
「敷きな、敷きな。」
と主税を見向いた。
「はい、」
とばかりで、その目玉に射られるようで堅くなってどこも見ず、面を背けると端なく、重箪笥の前なる姿見。