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まごしちとずんど

孫七とずんど

山本 周五郎

「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页

青空文庫

五

五

まさしく敵は城門をひらいて斬って出た。寄せ手の兵も鬨をつくって突込んだ、ゆるやかな丘の起伏と、かすかに青みはじめた草原のつづく屈竟の戦場である、両軍の兵は剣と槍をひらめかして、濁流のあい寄るように衝突した。ちょうどその戦場の中ほどに、一本の八重桜が立っていた、淡い牡丹色の花がまっさかりで、樹蔭が暗くみえるほど団々たる花毬を重ねている、そのまわりで槍や刀がきらきら光り、敵も味方もごちゃごちゃになって戦っていた。奇妙にその桜のまわりがいちばん激しい、少し脇のほうへ移るかと思うと、まるで相談したようにすぐまた集って来る。

「これは面白いな」孫七郎は丘の上から見ていて、さも興ありげに呟いた、「どういうわけであんなに桜のまわりへ集るのだろう、もっと脇へ寄れば足場も広いのにさ、あれはつまり、合戦をするにも花蔭などのほうが景気がいいというわけかしらん」

そのひと合せが終るまでかれは丘の上から動かなかった。それはまださぐりいくさだった、敵は城のほうへひき寄せようとするし、味方は城兵をおびきだそうとする、いつでも決戦の含みはありながら、まだ相互にちからの度合をはかっている、そういう戦だった。