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まごしちとずんど
孫七とずんど
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页
三
かの女は寸度の知己にあたる田井六郎兵衛という者の妹で、名をお初といった、孫七郎のことは面識こそないがいろいろと噂に聞いていたし、今宵の晩餐の給仕にたのまれた意味もおよそわかっている。だがそれにしても、……あんなにぶしつけにごらんなさるということがあるだろうか、あんなしげしげとしたお眼で。そう思うとついには、羞かしさで身が縮むようにさえ感じられてきた。
孫七郎は、手にした盃をさえ忘れたようだったが、やがて太息といっしょに「実に、すばらしい」と呟いた。
三
その明くる日、寸度右衛門はすぐ話をきめるために孫七郎をおとずれた。かれは昨日とおなじように箭を前に並べて思案していた。違うのは二本の箭が四本になっているだけで、坐り場所も、腕組みをした恰好も、昨日からじっとそうしていたもののように寸分も変っていなかった、寸度は呆れて眼をみはった。
「またそんな面倒くさいことをやっているのか」
「こんどは倍にしてみたんだが」とかれは真剣な調子で云った、「つまり二を四にしてみたんだが、というのは四を四で割ると」
「まあいいからおれの話を聞け」寸度はいさい構わずそこにある箭を押しやり、むずと坐って孫七郎の顔をまともに睨んだ。