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まごしちとずんど
孫七とずんど
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館 、1943(昭和18)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,189 字 · 30 页
「あっぱれだな柿ノ木」「孫七やったな」「初陣で一番乗りとはさすがだ」「帰ると番がしらだぞ」知る者も知らぬ者もやって来てそう喝采する、それがひとわたり済むとすぐまたあとから押しかけて来て「孫七やったな」「あっぱれだな柿ノ木」とおなじことを聞かされる、そうじゃないと云おうとしても決してとりあって呉れない、しようがないのでただ頭をかしげて、弱って、衒れていたところだったのだ。
「なあ石原寸度右衛門」とかれはすっかり事情をうちあけて云った、「そういうわけで、おれはなんにもしやしなかった、ただ歩いているうちに城門の前へ来てしまったんだ、嘘も隠しもないただ歩いて来たんだ、誰かひとりくらい相手があるだろうと思ってさ……」
「それでいいんだ、それが戦なんだ」寸度はふと顔をひきしめて云った、「開戦の第一弾で斃れる者もある、満身創痍となっても兜首ひとつ取らぬ者もある、またおまえのように、ただ歩いていって一番乗りの功名をすることもある、これが合戦だ。……いいか孫七、合戦とは功名手柄にあるんじゃない、それも結果のひとつではあるが、要はたたかう心だ、味方を勝利にみちびくために生命も名も捨ててかえりみない、その心さえたしかなればあとは神の知食すままだよ、孫七は孫七なりに戦った、それでいいんだ、なにもそう衒れることはないよ」