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かていのひとへ
家庭の人へ
寺田 寅彦
「家庭」1931(昭和6)年6月(風呂の寒暖計)、12月(こわいものの征服)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,527 字 · 9 页
そういう行きがかりで晩年自分が某研究所に入って自由に好きな研究の出来るという幸福な身分になったとき、別にわざわざ選ぶともなく自然に選んだ研究題目の一つは空中放電現象のそれであった。もちろんそれに関して私のこれまでに得た研究の結果は、学界に対する貢献としては誠に些細なお恥ずかしいものであったであろうが、ただ自分だけでは、自分自身の多年の疑問の中の少部分だけでも、いくらかそれによって明らかにすることが出来たと思うことに無限の喜びを感じるのである。
同じように地震もまた臆病な子供の私をひどくおびえさせたものの一つである。両親が昔安政の地震に遭難した実話を、子供の時から聞かされていたこともこの畏怖の念を助長する効果はあったかもしれないのであるが、しかしそれにはかかわらず、おそらく地震に対するこの恐怖は本能的なものであった。少なくとも私の子供の時分のそれはちょうど野蛮民のそれと同様な超自然的なものであったに相違ないと思われるのである。それはとにかく、後日理化学を修めるようになってから私の興味はやはり自然に地震現象の研究という方に向かって行った。そうして自分でその後この現象の研究を手がけるようになってからは、もう恐怖の感じは全く忘れたようになくなってしまった。