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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
「叔父さん、こんなものが有りましたが、お目に掛けましょうか」
と豊世は煤けた桐の箱を捜出して来た。先祖が死際に子供へ遺した手紙、先代が写したらしい武器、馬具の図、出兵の用意を細く書いた書類、その他種々な古い残った物が出て来た。
三吉はその中に「黒船」の図を見つけた。めずらしそうに、何度も何度も取上げて見た。半紙程の大きさの紙に、昔の人の眼に映った幻影が極く粗い木版で刷ってある。
「宛然――この船は幽霊だ」
と三吉は何か思い付いたように、その和蘭陀船の絵を見ながら言った。
「僕等の阿爺が狂に成ったのも、この幽霊の御蔭ですネ……」と復た彼は姉の方を見て言った。
お種は妙な眼付をして弟の顔を眺めていた。
「や、こいつは僕が貰って行こう」
と三吉はその図だけ分けて貰って、お雪の手紙と一緒に手荷物の中へ入れた。
叔父の出発は豊世に取って好い口実を与えた。こういう機会でも無ければ、彼女は容易に母を置いて行くことも出来ないような人であった。
「叔父さん、お願いですから私も連れてって下さいませんか。私も仕度しますわ」
と豊世は無理やりに叔父に頼んで、自分でも旅の仕度を始めた。