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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

遽然ザアと降って来た。三吉は天主台近くにある茶屋の二階へ客を案内した。広い座敷へ上って、そこで茶だの菓物だのを取り寄せながら、一緒に降って来る雨を眺めた。廊下の欄から手の届くほど近いところには、合歓木や藤が暗く掩い冠さっていた。雫は葉を伝って流れた。

冷々とした空気は三吉が心の内部までも侵入って来た。どうかすると彼は、家の方を思出したような眼付をしながら、夏梨をむく曾根の手を眺めていた、曾根が連の寡婦は宗教の伝道に従事していることなどを三吉に語った。こういう薄命な、とはいえ独りで立って行こうとするほど意志の堅い婦人は、まだ外にも、曾根の周囲にあった。曾根は女の力で支えられたような家族の中に居て、又、女の力で支えられたような芸術に携っていた。時とすると、彼女の言うことは、岩の間を曲り折って出て来る水のように冷たかった。

間もなく夏の雨は通り過ぎた。三吉は客と一緒にこの眺望の好い二階を下りた。四人は高い石垣について、元来た城跡の道を歩いて行った。

雨がかかると鶯の象が顕れるように言い伝えられた大きな石の傍へ来掛る頃は、復た連の二人がサッサと歩き出した。