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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
親しいようでも、何処か三吉には打解けないところが有るので、やがて曾根も手持無沙汰に元の席へ戻った。彼女は、二度まで三吉の家を訪ねて世話に成ったことを考えて、何卒して客をもてなしたいという風で有った。林檎などをむいて勧めた。二人の雑談は音楽のことから、ある外国から来ている音楽者の上に移った。
「先生がこう申しますんです」と曾根はその年老いた音楽者のことを言った。「曾根さん、貴方は宗教を信じなければいけません、宗教を信じなければ死んだ後で復た御互に逢うことが出来ませんからッて――死んで極楽へ行く積りも御座いませんけれど、逢えませんでは心細う御座ますねえ……」
間もなく汽車の時間が来た。三吉は宿の主人に頼んで、車を用意して貰うことにした。
「今日は学校から直に汽車に乗ってやって来ました」と三吉が言った。
「御宅へ黙って出ていらしったんでしょう……」と曾根も気の毒そうに苦笑した。
「何卒、御帰りでしたら、奥さんに宜敷……」
家の方のことは妙に三吉の気に掛って来た。それを言出した時ほど、彼も平気を装おうとしたことは無かった。三吉は曾根に別れを告げて、復た霧の中を停車場の方へと急いだ。