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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

その方面に眼のない者は多少失望した。出来そくないだなどと放言する者もあった。けれども文人雅客とか幾らかひねった趣向を好む人々は、つまり具眼の士は感服した。

――野のふぜいですな、よくうつしましたな、どうもなんとも云えぬふぜいですな。

――菊はこう作るのが本筋である、乱菊、これが自然である、染井のなどは邪道であって、あれなどは花を片輪にしたものである、おれとしてはこれなら飲める。

菊を飲むわけではない。菊をさかなにして酒をやろうというのである。そこで植辰がわでは花壇の要所とおぼしき処々へ茶店を設けた。そのうちに四つ五つ小座敷のあるのも建て、そこではちょいとした女などもいるし、きどったような料理などもできる。……お孝は時三といっしょにその茶屋のひと間を借りて、持って来た重箱を開いたり、またその家の料理など注文したりして、二人で菊を眺めながら半日を過した。

「あたしこのごろ死ぬのがこわくてしようがないの、ねえ、あんたそう思わなくって」

「――躯のぐあいでも悪いのか」

「そうじゃないの、死ねばあんたと別れ別れにならなくちゃならない、顔も見られないし話もできなくなるわ、そう思うと死ぬのがこわくてこわくて、胸のここらへんに固い石のような物が詰ってくるのよ」