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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

五

「――おたみって、おたみがなにか……」

「あたしに隠してどうするの、おたみを世話したのはあたしじゃないの、あたしお孝さんに申しわけがなくって、だからよけい肚が立って、南千住までいってそ云ってやったわ、……もう決して若旦那には会いません、赤ちゃんを産んだら田舎へひっこんでくらしますって、……神妙な顔で泣いてたけど、心のなかでなにを考えてるか知れたもんじゃないわ、いつも云ってるでしょ、旦つくにはがっちり轡を噛ませて、手綱をぎゅうきゅう緊めていなければいけないって、……あんたは甘いから……」

お孝はもう聞いてはいなかった。躯がぐらぐらして、倒れそうな気持で、やがて激しい嘔きけにおそわれて座を立った。

五

それから五日五晩お孝は思い惑った。

お文の話しぶりはずばりとしていて、思い違いではないかという隙が少しもなかった。要約するもしないも、良人とおたみがそういう仲になり、おたみがみごもったので実家へ帰った。それだけの事実をはっきり事実として語っている。南千住の家まで訪ねてゆき、そこでさんざん怒って、おたみが泣いて詫びたという。なかでも――もう若旦那には決して会わない、という言葉は辛辣であった。