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さむはし

寒橋

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,416 字 · 36 页

青空文庫

三

結婚して半年めぐらいからの、良人に対する激しい愛着心は、うがって云えばその反動でもあろう、発育のおくれていた躯や心が、にわかに生き生きと成長し始めたためもあろう。いずれにせよ、男と女の愛情というものが、身を灼くように楽しく、一面にはこんなに苦しく哀しいものかということを、お孝も自分で体験する時期になったのである。

三

一年と経ち二年と経った。

時三が来てまる二年めの五月、父の伊兵衛がとつぜん吐血して倒れた。医者は胃に潰瘍が出来たという診たてで、そのまま九月まで寝とおした。この期間ずっと、伊兵衛の世話は女中のおたみが独り占めでやった。まず喰べ物を作るのが手間と時間をくうし、温石を当てるとか胃部を冷やすとか、薬を煎じるとか便器のめんどうをみるとか、動くことを禁じられている病人なので、看護にはたいへん手数と努力が必要だった。……お孝も傍観していたわけではない、つとめて世話をしようとするのだが、おたみが先へ先へと奔走するし、当の病人からしておたみにかかりたがった。

「それはおたみにさせるからいい、おまえはそっちにすることがあるんだろう、構わないからそっちのことをして呉れ」