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こざくらひめものがたり

小桜姫物語

浅野 和三郎

03 小桜姫物語

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 136,097 字 · 267 页

青空文庫

三十二、無理な願

ある日私が御神前で統一の修行をして居りますと、急に躯がぶるぶると慓えるように感じました。何気なく背後を振り返って見ると、年の頃やや五十許と見ゆる一人の女性が坐って居りました。それが香織だったのでございます。

三十二、無理な願

『何やら昔の香織らしい面影が残って居れど、それにしては随分老け過ぎている……。』私が、そう考えて躊躇して居りますと、先方では、さも待ち切れないと言った様子で、膝をすり寄せてまいりました。――

『姫さまわたくしをお忘れでございますか……香織でございます……。』

『矢張りそうであったか。――私はそなたがまだ息災で現世に暮して居るものとばかり思っていました。一たいいつ歿ったのじゃ……。』

『もう、かれこれ十年位にもなるでございましょう。私のようなつまらぬものは、とてもこちらで姫さまにお目にかかれまいとあきらめて居りましたが、今日図らずも念願がかない、こんなうれしいことはございませぬ。よくまァ御無事で……些ッとも姫さまは往時とお変りがございませぬ。お懐かしう存じます……。』現世らしい挨拶をのべながら、香織はとうとう私の躯にしがみついて、泣き入りました。