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こざくらひめものがたり

小桜姫物語

浅野 和三郎

03 小桜姫物語

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 136,097 字 · 267 页

青空文庫

あんなことを言ったのは私が重畳悪うございました。これに懲りまして、私は早速情婦と手を切ります……。あの大切な女房に死なれては、私はもうこの世に生きている甲斐がありませぬ……。』

この男は三崎の町人で、年輩は三十四五の分別盛り、それが涙まじりに斯んなことを申すのでございますから、私は可笑しいやら、気の毒やら、全く呆れて了いました。でも折角の依みでございますから、兎も角も家出した女房の行方を探って見ますと、すぐその所在地が判りました。女は油ヶ壺の断崖の上に居りまして、しきりに小石を拾って袂の中に入れて居るのは、矢張り本当に入水するつもりらしいのでございます。そしてしくしく泣きながら、斯んなことを言って居りました。――

『口惜しい口惜しい! 自分の大切な良人をあんな女に寝とられて、何で黙って置けるものか! これから死んで、あの女に憑依いて仇を取ってやるからそう思って居るがよい……。』

平生はちょいちょい私のところへもお詣りに来る、至って温和な、そして顔立もあまり悪くはない女なのでございますのに、嫉妬の為めには斯んなにも精神が狂って、まるきり手がつけられないものになって了うのでございます。