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しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

宮本武蔵を書かせた直木

作家ならたれでもですよ。ですから作家の隣りに自分の女房はうっかり腰かけさせられないよ。すました顔していても、人妻でも美人だと或る場合には彼に姦せられているかも知れないからね、アッハッハッハ。

宮本武蔵を書かせた直木

え、「宮本武蔵」これも古いな。もう何度も話した気がするが、あれ書いた動機は、もう二人とも故人ですが、菊池寛氏と直木三十五氏の論争からですよ。読売新聞が、赤坂の山の茶屋で座談会をやったことがあるんです。その時、直木氏の「武蔵非名人論」と、菊池氏の「武蔵名人説」が席上、派手な議論をたたかわせたんです。もちろん、談笑のうちにですがね。

そのうちに、聞き役だった僕へ、どっちかが、

『吉川君はどう思います?』

と、云われたんで、僕は、やっぱり菊池氏に幾ぶん加担したようなことを云ったか知らん。僕自身、たいした自説も持っていなかった。

すると、翌月だったか、直木氏がすぐ「武蔵非名人論」というのを「文芸春秋」に書いたんですよ。その論拠をいうと長くなるんですがね。そりゃア何も直木氏の独創的な論でもない。天保時代にやっぱり剣客の間で盛んに武蔵の非名人論が一時唱えられたことがあるんです。