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しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

清盛観の訂正

妙だと思うけれど、小説の中に自己を読むばあいは、自分の日常には行動もしてないし表現もしない別の自分にマッチしたものを、読者は恋うというところがあるものとみえますね。

清盛観の訂正

「新・平家」なんかもそれじゃないですかね。あれが七年も続けられたわけは、つまり読者は、小説を読むとおもいつつ、実は七年間の自分を読んでいたことなんです。また、僕もあんなに迄、長篇になろうと予期して始めたんではありません。尤も、高田保氏の病気見舞に行ったら、病人が坐り直して、『あれは君、どうしても、七、八年仕事だよ、頑ばって、少くも六、七年は書き給え』と、途中でべんたつされたことはありましたがね。初めは、壇ノ浦の辺から書こうと思ったんです。壇ノ浦のうらぶれ平家と淪落した平家の女御達、それと浅間しい敗戦世態を古今に対比させて、そこから出発しようとしたのです。所が時日をかけて考えてるうちにだんだんだんだん構想が変っちまって、いつもの空想癖なんですね。いっそ書くならと、青年清盛から筆を起したのです。「週刊朝日」の方でも、受ける受けないっていうことは度外視して腰を据えてもいいということだったので、一そう、あんな厖大なものになってしまったわけですね。