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しょうせつのタネ

小説のタネ

吉川 英治

「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页

青空文庫

鳴門秘帖のころ

鳴門秘帖のころ

いま帰って来たばかりなんですよ。大映の試写室で、「鳴門秘帖」を見たんですがね。考えてみると、あれを書いたのは三十年前なんだな。てれましたね、たいへんに。映画化は今度で七回目なんです。はなはね、ひと頃の競映時代で、東亜キネマとか、松竹日活だとかで、さんざん競映でやったもんですよ。だが僕は、正直いうと、自分の古いもんの映画化は、ほとんど見たことないんです。少々気味がわるくってですね。だがあの頃は一つの新聞小説勃興期でもありましたなあ。三十年前だから、今度の終戦後に興った機運とはまた違うしね。いわば関東大震災を境にしたものさ。文芸でも何でも、復興期には復興機運の波が起るんだね。当時もロマンと興味追求のああしたものが、ちょうど沢田正二郎君が新しい剣の味を舞台に見せてうけた風潮などと共に一頃非常に盛んだったわけです。その一例が「鳴門秘帖」やまた同時に掲載され出した大仏次郎氏の「照る日曇る日」なんかだったわけですね。そして僕なんかも、まだ無名の駈け出しでしたし、年も三十三、四歳でしたかな。それを僕に書かせたのは阿部真之助氏で、その大毎にはまだ千葉亀雄氏がいた時分ですよ。