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しょうせつのタネ
小説のタネ
吉川 英治
「文藝春秋」1957(昭和32)年11月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,376 字 · 23 页
それに幾らか直木的逆説を加えたのが直木氏の非名人論なんですな。それはいいが、終りの方で、
「吉川も同調し武蔵は名人であるなどといったが、どこが名人か、聞きたいものだ。いざ出て来い」
と、ホコ先を僕にむけて結んである。つまり答えを「文芸春秋」に書けというわけなんだ。待てよと――僕は思ったね、これは直木流の手ですからね。そこで『僕は作家だから小説で書く』と、逃げちまったんだ。それが、いつのまにか、三人の公約みたいなかたちになって、『吉川君、小説に書くそうだね』と菊池氏にもいわれたんで『ええ、あの返事は、小説で書く』となっちまい、知らず知らず、その後、武蔵研究をひそかに企むようなことになっちまった。ものの動機っていうか、生れるってえことは、妙なもんですな。
武蔵のときでも、掲載前に朝日からタイトルで問題が出ました。学芸部の後醍院氏から電話で、『どうも申上げにくいんだけど、宮本武蔵じゃという社内の幹部会の声なんですが』と暗に題材を更えてほしいような口吻なんです。『それはきっと講談の宮本武蔵を連想されてるんでしょうが、少し変って書きますから、まあそれにしておいて下さい』