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しょうじょじごく
少女地獄
夢野 久作
「少女地獄」黒白書房、1936(昭和11)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,174 字 · 206 页
桜木町駅に着いたのは何時頃であったろうか。そこから程近い紅葉坂の自宅まで、何かしら胸を騒がせながら、雨上りの道を急いで行くと、突然に背後の橋の袂の暗闇から、
「……臼杵センセ……」
と呼び掛ける悲し気な声が聞こえて来たので、私はちょうど予期していたかのようにギクンとして立ち佇まった。それは疑いもないユリ子の声であった。
ユリ子は今日の午後、外出した時の通りの姿で、黒い男持の洋傘を持っており、夜目にも白い襟化粧をしていたが、気のせいか瞼の縁が黒くなっていたようであった。
彼女は、その洋傘を拡げて、人目を忍ぶようにして私に寄り添った。そうして平常の快闊さをアトカタもなくした陰気な、しかしハキハキした口調で問いかけた。
「先生。庚戌会へお出でになりまして……?……」
「ウン。行ったよ」
「白鷹先生とお会いになりまして……?……」
「……ウン……会ったよ」
「白鷹先生お喜びになりまして……」
「いいや。とてもブッキラ棒だったよ。変な人だね。あの先生は……」
私は幾分、皮肉な語気でそう言ったつもりであったが、彼女はもうトックに私のこうした言葉を予期していたかのように、私の顔をチラリと見るなり、淋しそうな微笑を横頬に浮かめて見せながら点頭いた。