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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
実を云うと滋幹は、それに眼を留めてから間もなく、それが非常に小柄な僧侶、―――その背の低さと肩の細さから判断して恐らくは尼僧、―――と推定される人物の、桜の幹に寄り添うて彳んでいるのであること、そしてその尼―――かも知れない人は、年老いた僧がしば/\防寒用に用いるあの白い絹の帽子を、頭からすっぽり被っているので、それがあゝ云う風にゆらめいているのであることに、大体気がついていたのであったが、それでもそうと気づいた途端に、いや/\、これは夢なのだ、こんな所にどうして尼などがいるものか、自分は夢を見ているのか、そうでなければあの魔物じみた夕桜の妖精が現れたのだ、………と、そんな風に、内心自分の視覚の世界を否定しようとするものがあって、確かに我が眼で見つゝあるものを故意に信じまいとしていたのであった。
でも、彼がしきりに否定しようとするにも拘らず、月の面を蔽うていた雲の羅が少しずつ剥がれて行くに従い、だん/\とその人影は刻明になって来て、半信半疑であったものが、今は尼であることに紛れもなかった。彼女が被っている帽子は、ちょうど後世のお高祖頭巾のように首の全部を覆い隠して、肩の上まで垂れているので、顔はこゝからは分らないけれども、しょんぼり彳んで空の方を仰いでいるのは、花に見惚れているのであろうか、花の上にある月