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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

にあこがれているのであろうか。………と、尼はしずかに花の下を去って、その崖を下り始めた。そして清水のほとりに来て身をかゞめながら、手をさしのべて山吹の枝を折ろうとするのであった。

尼がそうしている間に、滋幹も亦我知らず歩みを運んでいた。彼が出来るだけ足音を忍ばせながら、そうっとうしろに近寄って行くと、尼は手折った山吹を持って立ち上り、又崖の方へ引き返そうとするところであった。いかさま、こゝへ来て見ると、その崖の上の苔の間に微かなひとすじの坂路があって、そこを登り詰めたあたりに傾きかゝった小さな門が建っているのは、多分その奥が庵室になっているのであろう。

「もし、………」

身近に人のけはいがするのに驚いた尼の、はっと此方を振り返った時に、滋幹は何かの力で背後から突かれたように尼の方へのめり出ていた。

「もし、………ひょっとしたらあなた様は、故中納言殿の母君ではいらっしゃいませんか」

と、滋幹は吃りながら云った。

「世にある時は仰っしゃる通りの者でございましたが、………あなた様は」

「わたくしは、………わたくしは、………故大納言の遺れ形身、滋幹でございます」

そして彼は、一度に堰が切れたように、