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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

風に云ったあとは、熱い溜息をつゞけざまに吹きかけたゞけであった。彼はひたすら髪の毛の上から両手で女の顔を押さえ、それを自分の顔の方へまともに向けて、美しいと云われる目鼻だちを見きわめようとしたが、顔と顔とをそんなに寄せつけても二人の間には濃い闇があって、何も見透せないのであった。でもそう云う風にして暫く一心に視つめていると、何となくぼうっと、ほのじろいものが幻のように見えて来る気がした。女はその間一と言も云わず、黙って平中のするなりにされていた。平中は女の顔じゅうを撫で廻して、その輪廓を触覚に依って想像しようとするのであったが、そうされても猶柔軟な胴をしな/\させつゝ、全く男のするなりにされているのは、無言のうちに何も彼も打ち任せているのだとしか思えなかった。が、女は男の身じろぎを感じると、急に何と思ったか、

「待って、………」

と云いながら体を引いた。

「………彼処の障子の懸金を掛けて来るのを忘れましたわ。ちょっと掛けて参りますわね」

「直ぐお戻りになるのでしょうね」

「えゝ直ぐ、………」

女が障子と云ったのは、今の世の襖のことで、隣の局との間仕切に締めてあるのを云うのであった。