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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
と、使者はそう云う口上と共にくだんの贈物を置いて帰ったが、その二三日後、朝から大雪が降り出して一尺近くも積った夕方に、又使者があって、此の雪の白を如何ように過しておられますか、今夜は大方なみ/\ならず冷えることゝ存じますが、………と云うような言葉を述べ、何やら衣筥に収めたものを恭しく捧げながら運び入れた。そして、「これは唐土から伝来の品で、昔御先代の昭宣公が、冬になると召しておられたものですが、今の左大臣はまだ年がお若く、斯様なものを着用される折もないので、父君に代って伯父君に召して戴きたいと仰っしゃいまして」と、そう云ってそれを置いて行ったが、衣筥の中から出たものは、立派な貂の裘で、昔の人の薫きしめた香の匂が、今もなつかしくかおっているのであった。
贈物はそれからも引きつゞいて数回に及んだ。或る時は錦、綾、等々の織物、或る時はこれも唐土から渡ったと云う珍奇な幾種類もの香木、或る時は葡萄染、山吹、等々の御衣幾襲ね、―――折にふれて何とか彼とか口実を設けては、矢継ぎ早やに使者が来るのであった。大納言は時平に格別な考があるのだろうなどゝは疑ってもみず、たゞもう有難さと忝さで一杯であった。