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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

「いや、何でもない、/\」

と、老人はひとりごとのように云って口を噤んだ。

そんなことがあってから数日後、はやその年も残り少なになった十二月の二十日頃に、又しても時平の許から数々の贈物が届けられた。「大納言殿も来年は更に齢を加えられ、いよ/\八十路に近くなられると承るにつけても、縁につながるわれ/\共は慶賀に堪えない。これは些かながら、そのおよろこびのしるしまでに差上げるのですが、何卒これらの品々を御受納なされて、よき初春をお迎えになって下さい」と、使者はそう云う口上を述べたが、なお附け足して、時平が正月の三箇日のうちに、大納言の館へ年賀に見えるであろうと云う意を伝えた。「大臣が仰せられますには、自分の伯父御にこう云う長寿の人があるのは返す/″\も一門の栄誉である。自分はかね/″\此の伯父御とゆっくり酒を酌み交して、共によろこびを分ち、且は養生の術をも授かり、且は健康にあやからせて戴きたいと存じながら、今日まで折がなくて過して来たので、是非近々にその念願を遂げたいのであるが、それには此の正月がよい機会である。自分は毎年伯父御の邸へ年賀に参上したことがないのを、済まなく存じていた際でもあるから、来春から改めて御挨拶に伺い、年来の無礼をも詫びたいのである。