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しょうしょうしげもとのはは
少将滋幹の母
谷崎 潤一郎
「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页
「と仰っしゃいますと、外に何ぞ御所望の品がおありでしょうか」
「それをわたくしに云わせないでも、何かそちらにお心あたりがありそうなものじゃありませんか。―――ねえ、御老体、そう物惜しみをなさるなよ」
「物惜しみとは心外な! 愚老は何とかして日頃の御恩報じがしたい、御満足が得られますなら、どんな物でも差上げたいんです」
「どんな物でも! ですか、あッはゝゝゝゝ」
と、時平は体を仰け反らして、さすがにいくらか照れ臭いらしく、例の豪傑笑いをした。
「でははっきりと申しますぞ」
「どうぞ/\」
「もしほんとうに、あなたが口で仰っしゃるように、私の日頃の好意に対して、感謝しておいでになるならば、―――ですな。―――」
「はい、はい」
「あッはゝゝゝゝ、なんぼう酔っ払っておっても、ちと物狂おしいようで、此の先は申しにくい」
「そう仰っしゃらずに、どうぞ/\」
「それは私の館には勿論、やんごとない九重の奥にさえないもので、御老体のお手もとにだけあるもの。―――御老体に取って命より大切な、天にも地にもかけがえのないもの。―――箏のことだの、馬なんかとは比較にならない宝物。―――」
「そんなものが愚老の所にございましょうか」