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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

もっとはっきり云うならば、一往は忘れていたのだけれども、時平がその人に好奇心を抱いていることが明かになるや否や、意地悪くも一旦失いかけていた興味が、猛然と復活して来たのであった。彼は去年のあの晩以来、時平が急に伯父の大納言に接近し始め、しきりに歓心を求めるようになり出したのを、何となく不安な気持で眺めながら、それにしてもどう云う積りであろうかと、密かに時平の意図を疑い、事件のなりゆきに注意を怠らなかったのであるが、恰もその矢先に、あの饗宴の話が持ち上り、自分もそれに随行するように命ぜられたのであった。

あの晩、平中は虫が知らすと云うのか、今に何かゞ起るのではないかと云う豫覚があって、最初から憂鬱になっていた。彼は左大臣が自分を此の席に加えたことを、必ず訳がありそうに感じていたが、宴が始まると非常な速力で酒が進行し、左大臣や取巻き連中が寄ってたかって老翁を酔わせるようにしたり、左大臣が一方ではあの御簾の方へ頻々と色目を使い、一方では平中を掴まえて変な皮肉を浴びせたりしたので、一層不安が募ったのであった。彼は時平が腕白小僧のように眼を光らして、泥酔した顔を火照らし、喚き、唄い、笑うのを見ると、いよ/\何か大きな危険が御簾の中の人の上に迫りつゝあるように思え、それにつれてだん/\昔の愛情が、昔と同じ強さを以て蘇生