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しょうしょうしげもとのはは

少将滋幹の母

谷崎 潤一郎

「毎日新聞」毎日新聞社、1949(昭和24)年11月16日~1950(昭和25)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 83,234 字 · 160 页

青空文庫

多分その頃の出来事だったのであろう。聞くところに依れば、此の逸話は故芥川龍之介氏の著書にも紹介されているそうであるから、読者の多くは既に知っておられるであろうが、それを読まない人々のために、今その大要を物語ることにしよう。

さて平中は、何とかして侍従の君のアラを捜し出してやりたい、いくらあの女が非の打ちどころのない美婦人であるからと云って、結局は普通の人間に過ぎないのだと云う證拠を見たら、これほどに迷い込んだ夢もさめて、愛憎を盡かすことが出来るであろう、と、そう思った末に考えついたのは、あのようなみめうるわしい女であっても、その体から排泄するものは、われ/\と同じ汚物であろう、ついては何とかしてあの女のお虎子を盗み出し、中にしてあるものを見届けてやりたい、そうしたら己も、あんな顔をしてこんなむさい物を出すかと思って、一遍に厭気がさすであろう、と云うことであった。

ついでながら、筆者はその時分のお虎子がどんなものであったかを知らない。今昔にはたゞ「筥」と云ってあるが、宇治拾遺には「かはご」とあるので、皮で造った筥が普通だったのであろうか。何にしてもそう云う地位の女房たちは、筥の中に用を足して、それを時々召使の女に捨てに行かしたのであった。