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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

鶺鴒の巣

鶺鴒が街道に沿った岩かげに巣をつくった。背のびをしなくても手の届くほどの高さであるが、今まで誰れも気がつかなかったらしい、ということをある夕方瀬川君が来て話した。瀬川君の宿と南里君の宿とは十町ほど離れているが、道は一本筋だから彼は南里君の宿へあそびにくるごとに鶺鴒の巣の前を通るわけだ。巣のある場所は瀬川君の宿に近いところで、そのちょっと手前に小さい石地蔵がある。そこは真っ暗な道で、足の下の樹立の闇をえぐってひびいてくる激流の音が絶望的な呻き声のように伝わってくる。しかし、断崖は石地蔵の少し先きのところで道に並行して急に傾斜しているのでその突端までくると、瀬川君の宿のあかりが見えるのである。鶺鴒の巣のあるのはその曲り角だ。曲り角では人間は大抵の場合、遠い眺望の変化に気をとられて、すぐ眼の先のことを忘れているものだ。だから、鶺鴒が街道筋の断崖の上に巣をつくったのは大胆すぎると言えば大胆すぎるが、しかし賢明な方法であったとも言える。何故かといって往来に近い場所の方が蛇を避けるには都合がいいにきまっているし、それに第一、彼は人間よりも以上に蛇を恐れなければならないのだから。