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あきかぜとはは

尾崎士郎短篇集

尾崎 士郎

尾崎士郎『尾崎士郎短篇集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:秋風と母、運命について、河鹿、菎蒻、三等郵便局、十三夜、鶺鴒の巣、滝について、叛骨・中野正剛、蜜柑の皮。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 108,032 字 · 216 页

青空文庫

母のうめき声が私の疲れた神経に挑みかかってくるのだ。母はこのまま死んでしまうのではないか、という気がする。その感じは非常に静かに私の心の底に沈んでいった。――私の頭の中には母の死が私の感情にもたらす変化の予想で一ぱいになっている。

「まだか! 医者は?」

うめき声の中からとぎれとぎれに言う母の声が聞えた。

「もうすぐですよ。――もう一息ですよ」

妻は汗びっしょりになって両手で母の腰の上を撫でているのであった。今は一時だから医者の来るまであと未だ三時間ある。私は不意に胸の上にのしかかってくる重苦しいものを感じて瞼が妙に熱くなった。慌てて妻のうしろから、

「おれが暫く代っていてやるからね、お前は俥屋へいってほかの医者を探してきてもらってくれないかね」

わざと、元気のいい声でこう言いながら私は無理に妻のあとへ坐ってしまった。母は私の手が代って背中を撫でていることを感じたらしかった。

「もっと下の方を、――」

母は口早にこう言ってから前よりも一層烈しく悶えはじめた。井戸端で妻が水を流している音が聞えてきた、げっそりと痩せた母の身体は少しの力を入れると骨の位置が変ってしまいそうな気がする。