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やまだちもんどう
山だち問答
山本 周五郎
「講談雑誌」博文館、1946(昭和21)年6月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,163 字 · 32 页
ことがなにより楽しい年ごろの娘に、そうするのが嬉しいことだとお考えになれましょうか」彼女はつよく玄一郎の眼を見あげた、「……そんなになみ外れた娘であるほうがよいならそう成ってみせましょう、負け嫌いの性分がそう決心させました、その結果小雪がどんな者になったかは昌光寺の山門で郡さまもごらんのとおりです、でもあのとき、……郡さまが侍女にお羽折をお投げになった、あのとき、……わたくしは背から水を浴びたように慄然と致しました、自分の暴あらしいふるまいと郡さまのやさしい思遣りとが、あまりにはっきり対照されたからです、あなたが矢内さまとごいっしょに先へおいでになったあと、わたくしは山門の蔭に隠れて侍女の戻って来るまで泣いておりました」
小雪は矢内又作から彼の名を聞いたと云った。彼に会って礼も云い、自分の苦しい気持をうちあけたいという激しい欲望を感じて、その機会の来るのを待っていたと云った。然しその機会もなく決心もつかないうちに時日が経って、「山だち騒ぎ」が起った。そしてたちまち玄一郎に対する悪評が彼女の耳にも伝わった、それはそれまで彼女が聞いていた玄一郎評とは似ても似つかず、およそ無責任な悪意に満ちたものだった。