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やまへかえりゆくちち
山へ帰りゆく父
小川 未明
「中央公論」1923(大正12)年12月
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 7,875 字 · 16 页
また、方々へ見物にもつれていったりいたしました。
父親は、はじめのうちは、どこへいってもにぎやかなので驚いていました。また、いままで口にいれたことのないようなものを食べたりして、こうして、人間が暮らしてゆかれたら、しあわせなものだとも考えられたのでした。
五日、六日というふうに同じことがつづきますと、そのにぎやかさが、ただそうぞうしいものになり、また、毎日ごちそうを食べることも、これが人間の幸福であるとは、思われなくなりました。
「お父さん、おもしろい芝居が、はじまりましたから、いってごらんになりませんか。」
「いいや、見たくない。」
「お父さん、これから、なにかうまいものを食べに出かけましょう。」
「いいや、なにも食べたくない。」
父親は、じっとして、家の中に、すわっていました。
「どうしたのですか? お父さん。」と、息子は、なにをいっても、父親が気乗りをしないので、心配して問うたのでありました。
「私は、国へ帰りたくなった。」と、父親は答えました。
息子は、これを聞くと、目を円くして、
「あんなさびしい山の中へ帰ってもしかたがないではありませんか。どうして、あの不便なところがいいのですか?」