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いけぶくろのみせ

山之口貘詩文集

山之口 貘

山之口貘『山之口貘詩文集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:池袋の店、沖縄帰郷始末記、おきなわやまとぐち、声をあげて泣く、詩とはなにか、装幀の悩み、つまり詩は亡びる、夏向きの一夜、野宿、暴風への郷愁、私の青年時代、ダルマ船日記、チャンプルー。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 44,477 字 · 93 页

青空文庫

そんな時、中学時代の親しい友人であった亀重君というのが現われて、殊勝な相談をぼくに持ちかけて来た。東京まで連れてってもらえないかというのである。亀重君は、那覇の街外れの質屋の次男坊なのであった。彼も、矢張り、詩や絵などをやってる男なのであるが、ふたりとも、厭世的な気分の上で共鳴し合ったりしているうちに、彼は、家出を試みたくなったらしく、ぼくが、東京まで案内して呉れるならば、旅費を負担したいとぼくに申し出たのである。しかし、亀重君の金策は彼の思う通りにはいかなかったが、それでも、ふたりは船に乗って鹿児島までは出ることが出来たのである。ぼくらは、港近くに、旅館を見つけて、桜島を眺めながら、金の来る日を待ち佗びた。それは、亀重君の家に打電して、金を請求してあったからなのである。翌朝のこと、ふたりの膳に、一個ずつの卵が添えられていた。亀重君はその卵を、茶碗の縁にコツコツやったまではよかったが、なかみを茶碗にあけようとしてはずみに、ぐっしゃりと卵を潰してしまったのである。そして、卵は、かれの両手と膳の上を汚してしまった。その時、亀重君が、耳まで紅く染めたことを、ぼくは見逃がすことが出来ず、なんだか、頼りなく気の毒なおもいをさせられたのである。