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こうじょうしんぶん
工場新聞
徳永 直
「新潮」1932(昭和7)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,771 字 · 16 页
タツはいろいろ自分の書物類まで始末した。
それから二日経ち、五日経ち、十日経っても、何のこともなかった。みな『組長公選』の運動を、やられる覚悟でつづけていた。
「ガン張ってるのか知らん?」
トリが、タツの顔をみると、そう云った。
「さァ」タツにも見当つかなかった。二十日も三十日も、いろんな拷問に、堪えられるものとは信じられなかった。
「一人でも多く分会員をつくることよ」
タツは、何よりそれだと考えた。『赤煉瓦』をふやし、いいメンバーをどしどしつくってゆくことが、栗原を奪った白テロに対する復讐だと考えていた。
一ト月ばかり経ったある晩、タツが銭湯に行こうとして出かかると、フイと、長屋の路地をこっちへやってくる栗原の姿をみた。
「まぁ」
びっくりしてみると、栗原がニヤニヤ笑って近づいて来た。まるでその顔色は、草の芽が、日蔭でのびたような色だった。
アト戻りして、家ン中へ入れると、栗原は両脚をヒキずるように上へあがった。
「昨夜出て来たよ。いやどうもマイった」そう云って笑う栗原の顔色は、しかし、ちょっともマイったようでなかった。
四十五日間、蒸しかえしで、ガン張ってきた様子を話してから、こう云った。