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こうじょうしんぶん

工場新聞

徳永 直

「新潮」1932(昭和7)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,771 字 · 16 页

青空文庫

四

「それなら……」

トリが、また頬を赤くしながら、ツイ吊り出されるように云った。

「工場に持ってゆくと、ドシドシ売れちゃうわ」

「そうだ、定価一銭ぐらいでね」

栗原は、松本の煙草を不器用に口へ持っていった。

栗原は、ちょっとも文学青年らしくなかった。松本の神経質にくらべて、まるきりちがっていた。

「羽鳥君たち、芝園の方へゆくんなら、一緒にゆこう」

帰るとき、アトから追っかけるようにして出てきた栗原は、電車に乗るまでも、乗ってからも、愉快なことばかり喋って笑わせた。

「あの人、いったい何だろう」

トリと二人になったとき、トリがタツに云った。

「そうね、運動してる人かも知れないわ」

タツはそう答えた。そして今晩出かけるまで『左翼の人達』という、ブル新聞や何かを通して知っていた、何となく陰惨な、悲壮な感じがしていたのが、まるきり反対で、不思議な気がした。

四

タツの云ったことはあたった。栗原は『全協食産労働』のオルグだということを知ったのは『赤煉瓦の会』にゆき始めてから間もなくのことだった。

そして、そのときは彼女も『食産』の組合ニュースや『労新』を読んでいた。ニュースを読んでるものは、タツのほかにトリ、みちちゃん、トシ、ノブ子なぞ五人ばかりだった。