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こうじょうしんぶん
工場新聞
徳永 直
「新潮」1932(昭和7)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,771 字 · 16 页
三
「…………」
タツは、まだ決心つかずにいた。
「あたし、まだ無学だから」
タツは自分でもツマランと思いながら、そんな返事をした。
「そんなことあるもんか、一ノ組から、早川君もいくよ」
「早川って、トリちゃん?」
「そうだ」
松本は、課長席の方へ気を配って、籠札なんぞしらべるふりをした。
「それに、明日は日曜じゃないか」
タツはまだ考えていた。
「アトで、も一度くるから……ね」
そういって、松本は隣の台へいった。小柄な商業学校出の、この若い工手待遇の書記は、みんなから「眼玉の松ちゃん」でとおっていた。
「いってみようか?」
タツはそう思った。――トリちゃんもゆくんだから――。
でも若しか、課長さんにバレたら――彼女はそう思うと背筋が寒いような気がした。二銭ずつ昇給して、やっと五十八銭までなった彼女と、一ヵ月十二円の弟の給料で、失業者の父親はじめ六人家族がくらしている彼女の家庭――。
「だって、トリちゃんちだって、みんな同じだ」
そう思うと、急に元気が出た。お正午の時間に、廊下で松本をめっけると、タツは「ゆく」と返事した。
三
書記松本のうちは、三田四国町の停留所から右の路地を入った小さい二階長屋だった。